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エレヴェイタ
新しいアジトに来てもう一週間になる。
まだ馴染めない。このビルにも、この街にも、この状況にも。

入り口のオートロックのボタンがすこぶる押しにくい。
かといって、鍵で開けるってのはなんだか口惜しい。
幸い今夜は別の住人が先に入っていったので、再び鍵がかかる前に滑り込む。
エレヴェイタにも続いて乗り込む。ハコの中には私を含めて3人。
このビルの住人と思しき娘とそのパパらしき男。
ここでいうパパとは金のつながりを持つパパではなく血のつながりを持つパパだ。
それはさておき、フロアボタンが押されていない事に気づいた私は
「何階ですか?」などと愛想よく尋ねてみた。
ところがその娘、思っきしシカトである。黙って自分のフロアのボタンを押した。
親父キサマ、どうゆう教育をしとるんだマッタク。

「知らない人と口をきいてはいけません。」

そう。それがこの街の掟だ。眠らないコンクリートジャングルで生き延びるための知恵なのだ。私はただ、ご近所さん同士の地域ふれあいコミュニケーションをソッセンして試みたに過ぎないというのに。
以前住んでいた田舎町とは大違いだ。本物のジャングルのような所だったが、お隣のツジモトさんもお向いのアズマさんも、いつもニコニコご挨拶だったのだ。だが、彼らはここにはいない。そして私の家はもうあの場所にはないのだ。

エロスの都、ラブホのメッカ。今はこの街がこのビルが、私のアジト、新しい巣だ。
そして私の部屋の設備は、ラブホ以下だ。
| エックスワン | 11:16 PM | comments (0) | trackback (0) |
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