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2005,05,07, Saturday
招かれざる客
今日は頗るローギアだ。気力が金輪際あたりまで沈んでいる。長過ぎる休みというのも考え物である。真剣に頑張っているプロフェッショナル各位には異論もあろうが、自分にとっては仕事の方がへヴィなプライヴェートに対する息抜きのようなものなのだ。今のところ、仕事がもっとも現実逃避には最適なのである。
朝から、何かに集中しようと試みているが何も手につかない。その隙を逃さず、要らぬ思念が湧いてくる。ネガティヴ・スパイラル発動である。こうなると自制が利かぬ。あわや発狂寸前かというところで、不意にドア・チャイムが鳴った。 どうも水道の点検の様である。時間的に妙だったが、寝ていた午前中に一度来ていたのか。ともかく、魔界から日常へ引き戻された私は前後不覚のままにドアを開け、奴らの侵入を許してしまったのだ。 結論からいうと、奴らは水道点検ではなく活水器の販売業者であった。作業服を着た、子供のような顔の男二人組みだった。奴らはキッチンの水道から紙コップに水を取り、試験薬らしきものを垂らした。すると水が赤く染まる。「かなり塩素が濃いですねー」と男。実は情けない事にこの辺りまでは奴らの事をすっかり信用しきっていたのだ。 しかし、それで終わりかと思っていたら、そこから脈絡のないトークが始まった。何かの資料片手に、都会の水が如何に汚れているかを喋りだしたかと思うと、室内を見回して目に付いたアイテムについて何やかやと話しかけてくる。 この辺りでさすがに怪しいと気付いた。点検業者ならこうもプライヴェートに踏み込んだりはしない。実に不愉快だ。これは親しみを感じさせるためのセールストークなのだろうか。反って警戒心を抱かせるだけだと思うのだが、どういうレヴェルのマニュアルに則っているのか。 喋り続ける男を放置してビルの管理会社に電話する。しかし誰も出ない。休みではないだろうが、この時間だとさすがに終業しているか。その辺りを見越して攻勢をかけてきたのかもしれない。いずれにせよ、こいつらはマトモではない。男はまだ喋り続けていたが、それを遮って「セールスか?それなら用はない。帰れ。」と追い出した。気付くの遅過ぎ。 やられた。トドメを刺された。今や気分はローギアどころかむしろバックだ。奈落の底板も突き破る勢いだ。あの手の輩など都会では日常茶飯事なのだろうが、弱っていたとはいえマトモに相手した自分が情けない。しかも保険外交員のねいちゃんとかならまだし、胡散臭い男二人組みに心許すとは。 もうさっきから、思い出し笑いならぬ思い出し照れ隠しが止まらない。室内で一人「ウヒョー」とか「ムヒョー」などと叫び続けている始末。今は一人だからまだいいが、この思い出し照れ隠しというやつ、人前だろうとどこだろうと、所かまわず襲ってくる。電車の中で突然「ウニニニニ」などと呟こうものなら、そっちの方がハズカシイのだが。ともかく今は、さっきまでとは違った意味で心がズタズタである。 一つだけゆっとく。今ならどしどし保険契約締結しちゃうぞ。 |
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